第1話:斜面との対話
滋賀県の緑に囲まれた静かな町、そこが僕、山岸拓真が毎日を過ごす場所だ。僕は(株)大翔で法面工事の技術者として働いている。この仕事は、人々が見過ごしがちな斜面を守り、土砂崩れや地すべりから町を守るという、地味だけど非常に重要な役割を担っている。
朝、現場に到着すると、僕はいつものように安全ヘルメットをかぶり、厚手の作業着に袖を通す。今日のタスクは、新しい法枠のための現場踏査だ。僕たちの使命は、予測不能な自然の動きに常に一歩先んじること。そのためには、最新の技術と、鋭い洞察力が必要不可欠だ。
「拓真、今日はあの急斜面の踏査だ。気をつけろよ。」現場監督の和也さんが声をかけてくる。和也さんは、僕にとって尊敬する先輩であり、時に厳しい師匠でもある。
「はい、和也さん。しっかりやります。」僕は返事をしながら、手にしたレーザースキャナーの設定を確認する。この機械は、斜面の微妙な変化を捉え、データとして可視化する。
斜面に立つと、僕はいつも自然の圧倒的な存在感に心を打たれる。ここでは、僕はただの一技術者ではなく、大地と対話する者になる。風の音、鳥の声、そして土の匂い。これら全てが、僕に斜面の状態を教えてくれる。
ドローンを飛ばし、空からの視点で斜面を確認する。画面に映し出されるのは、緑に覆われた斜面の映像だが、僕にはそこに隠された危険が見える。一つ一つのひび割れ、水の流れ、それらが示す微細なサインを読み取るのだ。
「ここか…」僕は小さな異変を見つけた。表面下で水が浸透し、土がゆるんでいる。これを見逃せば、大雨が来たときに崩壊するかもしれない。僕はその場所にマーカーをつけ、詳細な調査と対策を行うための報告をする。
夕方になると、僕は一日の作業を終え、ヘルメットの汗を拭きながら報告書をまとめる。今日一日で、何か大きな災害を防げたかもしれない。そう思うと、この仕事の達成感と責任感は、何物にも代えがたい。
「拓真、今日もいい仕事をしたな。」和也さんが肩を叩いてくれる。その手は、長年の経験と知識が詰まった、頼もしい存在だ。
「ありがとうございます。まだまだ学ぶことがたくさんありますが、一つ一つ確実にクリアしていきます。」
僕は斜面を見上げながら、明日への決意を新たにする。この町を守るために、僕はまた明日も斜面と対話を続けるのだ。