鉄筋挿入工(ロックボルト)の設計段階から排水ボーリングなどによる水抜き対策が施されているケースは多くありません。それでも施工中に地下水が発見された場合などは、施工者の提案で排水工として水抜きパイプなどの設置を行います。弊社もDKドレーンという打ち込み式の水抜きパイプの設置方法で特許を有しています。

効果的に水抜きパイプを設置すると、平常時の地下水位が1~2m下がるかもしれません。これだけでも潜在的なすべり面に作用する間隙水圧が小さくなるので効果的です。設計などで横断図に地下水位がある場合、この水位が数m下がることで斜面の安定性は上昇することは感覚的にも理解できます。

さらに豪雨が発生した場合を考えます。このとき、異常な大雨によって地下水位が地表面に等しくなったとします。斜面全体が飽和した状態で移動土塊の重量が増加する半面、間隙水圧が上昇してすべり面に作用する有効応力が減少します。このとき、水抜きパイプがあると、水抜きパイプが間隙水の逃げ道となってせん断力を受けた時の地盤の非排水状態が緩和され、過剰間隙水圧の上昇を多少は抑えられるかもしれません。

斜面が完全に飽和するほどの大雨の場合、水抜きパイプを施工者の提案で数本設置したところで斜面は飽和した状態のままだと思いますが、過剰間隙水圧の軽減にある程度役立つと考えるとプラスアルファで安心材料を提供できます。

斜面が飽和した場合で設計すると、地下水が無い場合の設計では安全率1.2を満たす斜面でも1.2を切るでしょう。豪雨時に地下水が上昇する危険性を考えると、地下水を高くして安定計算をすべきようにも思われます。ただそのケースでロックボルトなどの抑止工で安全率を上昇させようとすると、かなり不経済な設計となるので水抜きパイプなど抑制工と組み合わせた対策が必要になります。

斜面の2次元の安定解析では、必要抑止力が大きな断面で設計します。その左右で抑止力が小さくなっていても設計断面の必要抑止力に基づいて設計が行われます。そのため、一般的に3次元の安定解析よりも2次元では安全率が低くできるのでいわゆる安全側の設計ができます。当然ですがその分不経済の設計になっているのが現状です。

豪雨による土砂災害が頻発する昨今ですので、盛り土のように過剰間隙水圧を考慮した設計とまではいかないまでも、地下水位が高い場合や斜面が飽和する場合で設計したり、そこまでしないまでも地下水位が上がらないための抑制工を併用した現場がもっと設計されてもよいように思います。

じゃあその経済性はどうやって補完したらいいのかという点ですが、将来的に3次元の解析も進んでいくのではないでしょうか。これだけi-ConstructionやBIMなどを推進して3次元で測量して点群も取得するのですから、もちろん費用対効果を加味しての話ですが3次元の安定計算が活用されないことは逆に不自然になってくるはずです。地下水の検討や対策工規模の検討なども合理的に行えて、設計から施工までのトータルで見ると対策効果と経済性のコスパは良くなりそうです。

地下水位を高くして計算すると、通常では無補強で良い斜面も安全率が1.2を切る斜面があるので、平時では1.2を満たしているけどとりあえず水だけも抜いておくか、みたいな水抜きだけ、あるいは水抜きと簡易的な保護工みたいな現場も出てきそうな気がします。