ロックボルトなどの切土補強土工は、もともとフランスなど欧米圏から日本に伝わってきたもので、設計や施工にあたっては一定の世界共通認識というか、グローバルスタンダードがあります。学生が学ぶ教科書に書いてあるような内容も大筋では共通しています。

実務においても、斜面の安定解析の方法もロックボルトなど補強材配置の検討方法も大枠は共通しているので、各国の技術者が集まって法面保護工事の設計にあたっても技術的な意思疎通には苦労しないはずです。

ただ日本は良くも悪くも例外となりそうです。ここ1~2年、フィリピンでのJICA案件化調査に向けて世界標準的な斜面安定解析手法やロックボルトでの補強の設計手法を調べたり、Rocscience のSlide2など五大開発の補強土のグローバル版みたいなのを触ったりしています。

斜面の安定解析の段階からいろいろと異なる点はあるのですが(これについてもまた書きたいことがあります)、やっぱり日本の鉄筋挿入工(ロックボルト)の一番の特徴は、種々ののり面工です。

いくつか海外ソフトを触って驚くのは、法枠や吹付モルタルを選んだり、ユニットネットやくもの巣ネットを選んだりといった、のり面工の選択がないことです。私が今知る限り、Plate capacity (kN)として、頭部材が受け持てる引張力を入力するだけです。このPlate capacityにいろいろ含まれているのかもしれませんが。

海外ソフトはさすがで斜面安定解析用途では効果的に使えるのですが、法枠の効果を合わせた補強材の効果を検討する点については国内ソフトのようにスムーズにはいきません。補強土の計算の意味をよく理解して応用すれば、海外標準のソフトでも法枠の効果を見越した設計もおそらく可能なのだと思いますので、それについて検証しているところです。

法枠に限らずのり面工の効果を含めた日本のロックボルトの設計方法を海外と比較するうえでキーとなるのが、おなじみのり面工低減係数(μ)です。

このμが日本独自のものかと最初思っていました。

しかし、これはそうではないようです。
アメリカの技術書などにも下記が記載されていました。
To=0.6Tmax前後となっていて、日本のμと似たようなレンジや求め方が記載されています。

To = μ・Tmax (kN)

To: 法面工に働く補強材力 (kN)
Tmax: 最大補強材引張力 (kN)

たしかにTmaxが求められたら、法面工に働く力をμを掛けて求めて、のり面工がその荷重に耐えるかは別途照査ができます。国内のソフトで法面工が選べるといっても、それぞれのμを設定して法面工の照査を加えているだけとも言えます。

あれ、日本独自なものはμじゃなかったのかと調べているなかで、今のところ日本独特のものかなと考えているのが、μにも関連しますがいわゆるT1paの計算方法です。

T1paはμの影響を受けますが、その点がどう考えられているか、次回考えたいです。