奥行きの存在を無視しているような魚をホームセンターで見かけました。
その魚は2次元しか知らないのか、動くこともなく、座標にぴたっと張り付いているかのようでした。
2次元というと、我々もいまアースアンカーの地盤破壊モデルを2次元で考えたうえで、3次元に拡張し、現実のメカニズムに合わせたりしています。現実世界の次元を1つ減らすだけで、物事をシンプルにとらえることができます。この魚も進化の過程で3次元的複雑さを取っ払ったのかもしれません。
土木の業界はその逆で昨今、3次元管理が流行っていますよね。ICTを活用して3次元データで現場を管理するのがもはや常識になってきました。弊社もここ1,2年、UAVやレーザースキャナーを使って3次元的に法面を管理するノウハウを蓄積しているところです。
ちなみに現実世界に時間を加えた概念をよく4次元と表現します。現実の世界にも時間が流れているのだから、そもそも4次元なのではと思いましたが、4次元というには、時間を自由に戻したり進めたりできる必要があるらしいです。空間に線を引いたり立体構造物は自由につくれますが、時間は不可逆的に流れるだけで、我々には止められません。だから、現実世界は3次元で、某青い猫が行き来する世界は4次元だということです。
2次元でしか把握できなかった現場を3次元で把握できるのは、たしかに画期的です。ビルや橋梁の管理などをする場合、維持補修の点も含めて、非常に効果を発揮するのでしょう。ただ、3次元管理をしていて思いますが、法面業界は、ほかの工種に比べると、3次元管理やICTの恩恵を受けにくい工種であると言えます。地中にはロックボルトやアンカーで奥行何mもの立体感があって干渉の有無などを確認できても、表面的にはせいぜい法枠くらいの立体感があるだけです。現時点でも法枠の出来形はある程度3次元的に管理できますが、やはり3次元的要素となる桁高を測る正確性はまだ不十分です。法枠の配筋の出来形をドローンを飛ばしただけでかぶりなども含めて計測できる精度にまでできたら、安全面でも効率面でもありがたいですよね。
ただそれもあくまでもパソコン上だけで3次元と騒いでいるだけであって、普段の我々は現場を3次元的に管理しています。時間をコントロールできないまでも、構造物や材料の耐用年数を考えて、現在の状況から将来にわたって機能を満足するように施工して管理している点では、少なくとも頭の中では4次元で管理をしているといっても過言ではないのではないでしょうか。
また、パラレルワールドの存在は信じているでしょうか?SFではよく登場しますが、もう一人の自分や、もう一つの世界のことです。パラレルワールドの概念は、4次元をさらに超えた5次元的な発想です。あの時こうしていたら、きっと自分は…と考えたときのその自分は、パラレルワールドに存在しているかもしれません。毎日いくつもしている選択の一つ一つで分岐している世界が、実は並行して存在しているのかもしれないのです。
現場管理でも同じことが言えます。あのときこうしていたら、と思うことは誰しもあると思います。そんなことを思わないスーパー管理者やスーパー職人だったとしても、こうしたらこうなる、ああしたらああなると、無意識に比較して最適な方法で現場に向き合っているはずです。するとつまり、3次元、4次元どころか、5次元管理をしていると言えなくもないと思います。
先ほど、法面業界は3次元管理的な効果を比較的受けにくいと述べましたが、安定解析や構造計算のスタンダードはガラッと変わるかもしれませんよね。斜面のすべりの方向や崩壊のパターンに3次元的な広がりを持たせることが主流になる日も近いでしょう。ただ、それには必要な土質定数が増えたり、解析が必要以上に複雑になったりして、現状まだ2次元的手法が多く使われています。いずれ必ずもっと普及するでしょうが、必要最小限の情報をもとに2次元でシンプルに考えることは、次元を増やすことと同じくらい重要なテクニックだと思います。
よく3次元管理やICTと聞くと、ついていけないとおっしゃる諸先輩方がいらっしゃいますが、皆様が普段こなしていることをITが追いかけているだけです。ついていけていないのはICTのほうです。現場を高次元で管理して、データ管理は最小限にシンプルに2次元でというのは、実は一番効率的だと思います。 くれぐれも次元に踊らされて膨張しすぎないように、余計な要素は取っ払って基本はシンプルに。
それでも3次元でしか捉えられないものは存在しますので、必要に応じて3次元で表現してうまく管理できる、出しどころをよく知っている企業でありたいです。