第4話:心の斜面を越えて
拓真は施工現場での仕事には自信を持っていた。しかし、恋愛となると話は別だった。彼の心の中には、技術的な問題よりも複雑で、解決が難しい「心の斜面」があった。
ある日、現場で働く新しい環境コンサルタントの香織と出会った。彼女は、自然環境の保護に関する専門知識を持ち、その明るい笑顔と熱心な姿勢が拓真の心を惹きつけた。しかし、拓真には彼女に声をかける勇気がなかった。
「恋愛なんて、施工計画を立てるより難しい…」拓真はぼんやりとした不安を感じながらも、香織に話しかける機会をうかがっていた。
そんなある昼休み、拓真は香織が一人で図面を見ながら何かをメモしているのを見つけた。彼女の真剣な表情に、拓真は思わず声をかけた。
「その図面、新しい吹付法枠の計画ですか?」
香織は顔を上げ、笑顔で答えた。「ええ、でもちょっと難しいところがあって…」
拓真は自分の専門知識を活かして、香織の問題を解決する手助けをした。その過程で、二人の間には自然と会話が生まれ、拓真は香織の人柄にますます惹かれていった。
しかし、恋愛に関しては、拓真はまだまだ新米だった。彼は香織に対する自分の感情をどう表現していいかわからず、試行錯誤を繰り返した。友人に相談したり、ネットで恋愛テクニックを調べたりしたが、なかなかうまくいかない。
ある日、拓真はついに決心した。自分の気持ちを素直に伝えることにしたのだ。施工現場の安全を守るように、自分の心も守らなければならないと気づいたからだ。
「香織さん、今度、仕事終わりに一緒に夕食でもどうですか?」拓真は勇気を出して誘った。
香織は少し驚いた表情を見せたが、すぐに嬉しそうに頷いた。「いいですね、楽しみにしています。」
その日の夕食は、拓真にとって大きな一歩だった。彼は自分の心の斜面を乗り越え、新しい関係の第一歩を踏み出したのだ。仕事のように計画的にはいかないかもしれないが、恋愛もまた、試行錯誤の連続であることを彼は学んでいた。