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”記録的な豪雨の影響で斜面地盤が飽和して地滑りなどの土砂災害が発生しやすくなっております。近隣住民のみなさまご注意ください”

大雨が降った際にニュースでよく聞く言葉です。
でも大雨で斜面の水分量が増えると、具体的にどうして斜面は不安定化するのでしょうか?

このブログでは、土質力学っぽい記事を書いた時にアクセス数が増える傾向にあってニーズがある内容だと思うので、雨が降ったら斜面が不安定化するのはどういうことなのか、(アクセス数目当てで^^)ざっくりとお伝えしたいと思います。

まじめに理解しようと思うと土質力学の教科書を読んで全応力と有効応力、間隙水圧、飽和土と不飽和土などを理解してから、斜面の安定化問題を考えないといけません。斜面安定を考える前にそもそも全応力と有効応力ってなんやそれ?って方のために、応力とか三角関数ってなにそれ状態だった文系人間の私ならこう説明されたかったという流れで説明します。

それでは話していきます。

まず、検討する上記画像の概念を単純化します。
斜面の安定問題を下記のようにお馴染みのモデルとして考えます。斜面にブロックがのっていますが、ブロックは移動土塊、斜面はすべり面のモデルだと理解してください。実際は、ブロックの表面が地表面で斜面の表面がすべり面という感覚です。

斜面がすべるかすべらないかというのは、いろいろ複雑なものを無視して単純化すると下記のような剛体どうしの釣合い問題です。W’をブロックの重量、θは斜面の傾斜角度です。重力は、鉛直に働きますので、W’は斜面の角度に関係なく鉛直に働きます。W’としているのは、後から出てくるWと区別するための単なる記号です。

斜面の安定問題

W’は、移動土塊の重量、θは斜面の傾斜角度です。W’は重力方向に働くので、鉛直方向です。斜面の角度θだけ傾けてやると、W’cosθとして斜面に垂直な力となります。ここで、水平地盤であれば、W’の向きで垂直になるのを地面がθだけ傾いているので、同じくW’θ傾けるから斜面に垂直になりますよね。
斜面に平行なW’sinθは、ブロックがすべろうとする力です。

「いや、W’はわかるけど、W’cosθとかW’sinθがわからへん」という方、私がそうでしたからよくわかります。おいていきませんので安心してください、下記をご覧ください。
矢印の書いてあるベクトルで考えるとややこしいので、三角形で考えてみてください。
力は大きさと方向を持っています。向きが矢印、大きさが辺の長さです。いわゆるベクトルですね。W’という力が、θという角度を持った直角三角形の1辺である場合、あと2辺の長さがいくつになるか、それを求めて矢印(方向)をつけて力にするだけです。
なので、普通にcosθ=x/W’として式を変換すれば斜面に垂直に働く力の大きさが求められます(※図ではW’Wと書いています(ダッシュを忘れました。。))。モデルではブロックの重心から鉛直に矢印を書いてθが決まっているのでそれでほかの力の方向も決まります。

斜面に垂直に働く力

さて、本論にもどります。

ここで、ブロックがすべらないようにするためにはW’cosθが大きいほうがよいことがわかります。
移動土塊とすべり面との摩擦力が高まるためです。下の図で一目瞭然だと思います。テーブルの上に置いた本にひもをつけてテーブルと平行に引張ることをイメージしてください。本を押さえない場合と、手(そう見えるはずです)で垂直に上から押さえつけた場合、どちらの場合、本は動きにくいですか。上から押さえつけたほうが動きにくいですよね。

斜面のすべり面に働く垂直応力

この本を押さえるイメージが、斜面上のブロックの釣合いの問題と異なる点は、本を引張るイメージは本を押さえつける力と、引張る力に相関関係がないことです。たとえば、左手で押さえつけて右手で引っ張る場合、左は思いっきり押さえつけて右手はあまり引張らなかったり別々に力を調整することができます。

斜面ブロックのモデルの場合は、上記で考えた三角形なので、W’cosθW’sinθは、W’と無関係でいることはできません。これも三角形の辺長で考えるとわかりやすいですよね。W’の長さが変化すると、それら2つもその影響を受けます。いわゆる相似関係となるので、相関関係に変化は生まれません。

したがって、移動土塊のモデルであるブロックの重量が大きくなってすべる力が大きくなっても、同じ角度の場合、それを斜面に押さえつける力も大きくなるのです。斜面角度θが急であれば上に乗っているものがあまりに重くなったり、斜面角度が大きくなれば、押さえつける力が増えるといってもすべりそうなことは想像できます。しかし、せいぜい30度で急傾斜といわれるような斜面で、移動土塊が飽和して間隙を満たす水の重量分だけ増えることは、上記の理屈を考えるとそれほど危険なことでしょうか?

土質力学の教科書で斜面安定については、どのテキストでも一番最後のほうにおまけ程度に書いてあるだけです。斜面安定の問題について調べたくてそこだけ読んでも、上記の問いについて明確な答えがみつかりません。そこで、たいていテキストの最初のほうに戻る必要があります(そして途方に暮れます)。

”大雨で斜面が飽和して土砂災害の危険性が高まっています”

この言葉が頭でつながりかけましたか。余計に複雑に聞こえるようになりましたか。
今回で、問題とする概念を整理しましたので、次回からその言葉が頭で滞りなく流れるように、お話していきます。