さて、前回#1、豪雨が降ると斜面が不安定化する問題について検討するための前提条件を下記のモデルを整理しました。
斜面が飽和することで移動土塊の重量が増加するのは危なそうだけれど、斜面に押さえつけられる力も大きくなるので、それほど危険な状態になるだろうか?というところで終わっていました。
そこで、この斜面に実際に雨を降らせて斜面を構成する地盤の間隙の空気がすべて水で置き換えられた状態にします。
上のモデルに豪雨が降って、斜面もブロックもすべて水で満たされました。この時の土塊の重量をWとして、さきほどまでのW’と区別します。図を見てくだされば、空気と水では水のほうが重いので、WがW’より大きくなるのはわかります。
さあ、斜面上のブロックの重量は、水を含んでWとして大きくなりました。
すべろうとする力Wsinθも斜面におさえつけられる力Wcosθも同じようにW’のそれより大きくなっています。この状態がそれほど危険か?というのが前回までの話です。
図をみるとすでにお気づきだと思いますが、間隙水圧uによる力がWcosθと逆方向に働いています。つまり、この場合、ブロックが斜面に垂直に押さえつけられる力が水圧の分だけ押し返されているイメージです。ブロック自体の重量は、Wが増えた分、WsinθもWcosθも比例して増えていることに間違いはありませんが、すべり面に働く水圧分だけすべり面を押し付けている力は減少するわけです。こうして地盤が飽和すると斜面は不安定になるというわけです。
※このモデルは単位幅(1m)として考えください。そのため、間隙水圧uに土塊の底面の長さlを掛けると、ブロックを押し返す力となります。
わかったようなわからないような、、という方は、寝転んでいるところを重りで押さえつけられたことをイメージしてください。このときのあなたは、土粒子です。土粒子として押さえつけられて身動きが取れませんよね。すべらずに押さえつけられています。重りの重量がダイレクトに伝わっていることが想像できるでしょう。
では次にお風呂の中にもぐったところを先ほどと同じ重りで水面が押さえつけられたとイメージしてください。水の中で苦しいとかは無視して、このとき荷重でつぶされそーみたいな感覚はなくないですか?重りが水面で水圧によって押し返されて、水の中でも全く身動きがとれないことはないですよね。これが、飽和した土の土粒子の感覚です。実際はこのお風呂の中に何人もの人間が重なり合っているイメージですが、何人も重なった上から重りでダイレクトに押されるよりはつぶされる感覚は少ないと思います。
それっぽくいうと、このとき重りからお風呂に働くのが全応力、水圧が受け持つ分が引かれてあなたの身体に実際に作用するのが有効応力です。図はあくまで概念ですので身体の面積がどうとか、お風呂の面積がどうとか、排水条件がどうとかはここでは無視してください。
これが、お馴染みの下記の式、有効応力=全応力ー間隙水圧となるわけです。
σ’ = σ – u
σ’:有効応力、σ:全応力、u:間隙水圧
豪雨の際に斜面が不安定になる原因はこれだけではありません。
次回は、斜面の安定問題としてもう少し掘り下げてみます。