法面保護、斜面補強、土砂災害と言ってしまえば一言ですが、法面施工会社として我々が日々対峙している問題は、奥が深い問題です。
国道306号線沿いの山は、谷があって尾根があって道路からでも明確に見て取れる地形で、100 mm/h近い短時間豪雨を受けて、絵に描いたように多くの谷から水が勢いよく流れていました。この谷の上流で川底が削られたり、谷沿い斜面で崩壊した土砂が流れたりすると土石流となります。一方で、尾根である道路にせり出している斜面は、モルタル吹付や吹き付け法枠工、落石防護工にグラウンドアンカーなど、各種法面保護工事で対策がなされています。
災害が起きた後、また、起きうる条件下で道路をパトロールしていると、その路線で対策工事が実施されている意味や目的が良く理解できます。発注者や道路管理者が実施しておられる対策は、危険そうな箇所をしっかりカバーしておられて、いざ災害が起きそうな条件にある斜面を見ると、その対策の意図が伝わってきます。
土木は自然が相手で、自然環境は時々刻々と変化を続けていて、対策をする地盤も天候や周辺の条件でその強度を変化させます。その条件に応じて、対策工の費用は変化しますし安全側を追い続ければきりがありません。
降雨に対して地盤の飽和度や地下水位、地表面を流れるみずみちを検討するとなると、地盤工学に加えて水理学や水文学の分野も絡んできます。
不飽和状態の地盤の取り扱いは地盤工学の難しい分野で、さらに現場ごとにいちいち検討するのは不経済となります。しかし、地下水位が最も上昇した場合など、最悪のケースで計算を回すことは難しくありません。一方、どれだけの降雨でその状態になるかを検討するのは容易でありません。しかしながら、地下水位が豪雨で最も上昇したケースでの安全率くらいは、目安として検討する必要を感じます。そのとき、補強後の安全率が1.2もある必要はありませんが、1.0以上あるのかどうかなど、この異常気象なので施工会社としてそのあたりの検討は、どこに出すわけでもないけれど涼しい顔でやっておきたいです。3次元で検討すると、もしかしたら局所的に不安定になる箇所なども出てくるかもしれません。
今回の豪雨をうけて、既設法枠中段くらいの水抜きパイプから勢いよく地下水が溢れて表面を滝のように流れているのを見ると、この地下水位条件での補強後安全率はいくらなのだろうと気になります。また、同じ斜面でもすり鉢状で明らかに地下水が集中しそうな箇所の検討がなされているか、他の設計断面の配置から引っ張っているだけで、地下水が上昇した場合、最も危険な断面では検討されていないかもしれません。この先、3次元計測で取得したモデルで安定解析をして、ロックボルトを3次元で配置して局所的に長さを変えたり排水対策を検討する事例は出てくるのでしょうか。
といいながらも、そこまでやらずにここまで対策できてしまう(できてきた)のが鉄筋挿入工(ロックボルト)の良いところなのは言うまでもありません。
施工のDX化がすすみ、計測精度や範囲、計算能力も向上していくと、ノウハウさえあればできることは増え、土砂災害対策の検討はある意味でその奥行きは際限なく広がっているように思えます。斜面防災、法面保護、土砂災害対策と、言葉は簡単ですが、我々が対峙している問題は日々自覚しているよりも複雑で奥が深く、専門性を強く問われる分野なのかもしれません。