豪雨で斜面がすべりやすくなることについて#2では、すべり面を垂直に押さえつける力が、すべり面で浮力のように働く間隙水圧によって一部押し返されることがわかりました。

今回は、すべり面を垂直に押す力が小さくなるとすべり面のせん断強さが小さくなることについて、クーロンの式を使って説明します。

再三登場している下記の図ですが、土塊がすべろうとする力をT(kN)、すべり面と土塊底面に働くせん断強さをS(kN)とします。
土塊がすべらないとき(斜面が安定している)ときは、T≦Sです。
S/Tで表現すると、1.0以上だとすべらないという理屈です。

ちなみに、Sを力として書いていて、すべりに抵抗する力 / すべろうとする力などと便宜的に表されることもあります。ただし、厳密にはSは強さであることを頭の片隅に置いておくことが、正しい理解には意外と大事です。

すべり面のせん断強さ

ここで、土のせん断強さを表す下記の式をご覧ください。

S = cl + Ntanφ (kN)

クーロンの式と呼ばれる下記は、応力表記です。

s = c + σtanφ (kN/m2)

すべり面のせん断強さ

この式から、すべり面のせん断強さは、すべり面に働く粘着成分(cl)と摩擦成分(Ntanφ)から成り立っていることがわかります。

したがって、N(=Wcosθ)が小さくなれば摩擦成分が小さくなることが理解できますよね。斜面が飽和状態になると、間隙水圧の分だけ有効応力としてしかブロックを斜面に押さえつける力伝わらず、摩擦力成分が小さくなってせん断強さが減少するという理屈です。

ここでさらに追い打ちをかけるのが、粘着力成分の減少または消失です。

豪雨で斜面が飽和すると、S = cl + Ntanφの粘着力成分であるclが減少します。

下記の図をご覧ください。通常、土粒子と空気と間隙水の三相構造で成り立っていた土が土粒子と水だけになるのが、飽和した状態です。粘着力は、土粒子同士が電気的・化学的力などでくっついている力ですが、水で満たされることでその結合が離れて粘着力が減少します。また、間隙水は不飽和土であれば、土粒子の間にほどよく存在することで、表面張力で土粒子同士を引き付ける働きをします。負の間隙水圧やサクションとしてみかけの粘着力などとも呼ばれます。これも飽和してしまうと、消失してしまいます。

飽和土と不飽和土の間隙水圧

これらの現象を理解するためには、砂浜で砂の山をつくることをイメージしてください。もし砂が完全に乾燥している場合、そのまま山をつくりますか?そのような場合、人は無意識に砂を湿らせるはずです。ですが、水を含ませすぎるとどうなるでしょう。どろっとなって山は崩れます。これと同じことが地盤でも起こります。また、土木でいう水締めはその逆で、不飽和土に水分を供給してやることでサクションを減少させて触りやすくしています。

少々話が脱線しましたが、豪雨によって斜面が飽和すると不安定化する現象についてご理解いただけましたか。

もし、私がテキストを漁っていたときにこんな風な流れで誰かが説明をしてくれたら助かったのになという流れで話をしたのでお役に立てば幸いです。