例えばアジア圏の同業社とミーティングして、日本の法面技術を披露したら、その技術の高さに驚かれると思いますか?
ぜひ取り入れたい、その技術を手に入れたいとお願いされると思いますか?
残念ながら、答えはノーです。
実際に弊社が各国の同業社と話をしてきた経験ですが、少なくともマレーシア、インドネシア、フィリピン、インド、どの国の同業者も大して驚くことはありません。オーストラリアや香港など先進国ならなおさらでした。どの国にも日本の一般的な法面屋と同程度かそれ以上の技術力を有している同業社が多々あります。
技能実習生が東南アジアから多く来ますが、もし、日本の法面業者の技術力が東南アジアなどに比べて格段に進んでいると思っているなら、それは大きな間違いです。
もちろん、工事の品質や個々の職人の腕や管理者の質、安全対策のレベルなどに差が出る部分もありますが、もはやベースに持っている技術力に差はないように感じます。小さな会社でも同業者の質によっては、むしろ敵わない会社もあります。日本の一般的な法面屋が東南アジアに行っても、優位性を発揮するのは難しいでしょう。
ただ彼らが日本の技術に驚かないといっても、理由は2つあります。
1つは、そもそも単純に、日本の技術が日本人が思っているほど特別でないこと。
2つめは、その技術の優位性を理解するレベルにまだ社会が達していないこと。
日本人がそれをしている意味がわからない、それの何が良いのかわからない、という側面は、話していて少なからず感じます。JICAのODAプロジェクトは、発注者となる政府側にその理解を促したりしていますよね。ただそれも社会的ニーズが無いから理解が進まないだけで、法面工事レベルでは、技術的にできないというわけではないでしょう。
もちろん現地相場レベルで手に負えない工法を押しつければ別ですが、それはそもそも優位性とは言えませんよね。
ただ、彼らと現地の現場を歩いたり設計書を見たりすると、改善したらいいのにと思うような、東南アジア各国に共通する設計のクセは見受けられます。ただ、おそらく逆に日本の設計自体もクセの塊なのでしょう。
ある程度技術的ベースができてしまった後は、どちらの技術が優位かを判断するのは難しい問題です。環境が違えば社会も違うわけですから、郷に入れば郷に従えという感覚は必要だと思います。
何が言いたいかというと、法面工事に限っては、東南アジアと比べても日本の技術にもはやそこまで優位性が無いということです。普段日本の技術を特集するテレビなどを鵜呑みにするとつい勘違いしてしまいますが、もう日本の技術力を振りかざすだけでは勝負できない時代に入っています。日本は何かと技術力をアピールしたがりますが、各国だいたいある程度のものが作れてしまうと、コストを掛けてまでそれ以上凝ったものはいらないというのが世界の潮流です。次は、それをどう売るか、それでどう仕掛けてポジションをとるかという勝負にシフトしていきます。
土木工事でも同じことが言えるでしょう。ついつい、この機械を使えば人間が半分で済む、工期が短くなるなどと言いがちですが、国が違えば機械が安くて人間が多く投入できるほうがよかったりもします。それはどちらが優れているという問題ではありません。
技術力に差がなくなってくると、戦略やトップの判断力が問われる時代になってきます。言わずもがな、ここ数十年の日本はこの点でチャンスを台無しにしてきました。自国の立ち位置、自社の立ち位置を真摯に受け止めて、強みを磨きながら勝負の仕方を考えていく必要がありそうです。