自然界に存在する触ってやや湿り気のある土(不飽和土)について考えるのは、土質力学で最も難しいテーマのひとつであることは、法面工事の実務レベルでは気にされることすら少ないかと思います。
実務でもアカデミックでも、土は完全に乾燥した状態か、地下水位以下で完全に飽和した状態かで安定解析などの検討がなされるのが普通です。自然界に通常存在する多少湿った土は不飽和状態でありますが、アカデミックでも力学的にまだ研究途上でとくに実務者がその領域に踏み入るのはあまり賢明とはいえません。
よく豪雨の影響などを検討すると斜面が飽和して崩れやすくなるとか言いますが、あれも地下水位が上昇することに起因するものと、地下水位面より上の飽和度が上昇してサクション(みかけの粘着力)が減少することに起因するものがあります。両者は同じ現象のようで、検討の複雑さは全く異なります。
おさらいするために、たとえば、上の画像の斜面の飽和度が降雨の影響でどう変化するかを有限要素法の浸透流解析で考えます。
これは、降雨もない初期の状態の斜面地盤の飽和度です。赤が飽和度100%の部分です。つまり赤い部分は、初期の地下水位以下にあります。
ここに1時間あたり12mmの雨を4時間降らせます。
すると、斜面の飽和度は下記のように変化します。地表面の飽和度が上昇しました。さらに、赤の部分が上昇し、地下水位も上昇したことがわかります。
降雨強度を上げてもし1時間当たり50mmの雨が4時間降ったとすると、さらに極端に下のように変化します。
地表面の飽和度が90%ほどにまで高まって(オレンジ)、地下水位も初期状態より上昇しています。
このとき、地下水位以下のすべり面を検討したとして、地下水位以下を完全に飽和した状態としてとらえ、それより上は完全に乾燥している状態として計算しているのが通常の実務での安定解析です。
そもそも水が適切に排水されるとして地下水位を検討していないケースもあります。
法面工事の実務で水を検討したとしても検討できているのは地下水位であり、地下水位面より上の飽和度は安定計算上、普通考慮されていません(0%)。
この斜面に降る雨がやんでから72時間経過したのが下の状態です。
地表面の飽和度が減少したのがわかります。
ただ注目してほしいのが地下水位(真っ赤なエリア)です。72時間経過しても大した変化はありません。これが、雨がやんでも斜面が危険な原因のひとつです。
雨が降ると、斜面が飽和状態になる、粘着力がなくなるとニュースとかでも良く聞きますが、それは地下水位が上がるという話か、地下水位面より上の飽和度が上昇するという話かで話がずいぶん変わってきます。そこがごっちゃになっているケースも多々あるかと思い、今回おさらいさせていただきました。
実務では、地下水位以下の真っ赤な部分と、飽和度0%の真っ青な部分の2極化であるイメージです。
余談ですが、これを見ると水抜きパイプを入れると効果的な位置なども検討がつきますね。現場全体の3次元点群データをつかってせん断強度逓減法などで安全率解析をすれば、豪雨発生時の安定計算もできます。より感覚的に分かりやすい使い方でいえば、現場で飽和しやすい場所や地下水を抜くべき場所の検討もつけられます。その排水効果の検証も行えます。
そのように不飽和土に関する検討を実務レベルに落とし込むのも不可能ではありません。ただ難しいです。
デジタルツインや現場の見える化の話がありますが、ある意味でこんな検討によって土中のイメージをもって現場に反映させるのもデジタルツインなのかもしれません。